日本の匠にクリエイティブの源を聞く職人インタビュー特集『匠の道』。

第4回から第7回にかけては、北陸新幹線の開業1周年を記念した北陸特集が続きます。第6回は、石川県金沢市に工房を構える鶴見染飾工芸の2代目加賀友禅作家鶴見晋史(つるみ・くにちか)さん。

 

 

代々、染物を営む家系に生まれた晋史さんは九州産業大学芸術学部美術学科を卒業後、東京友禅を学んだのち、実父である鶴見保次さんから加賀友禅を学びました。現在は加賀友禅作家として活躍します。

加賀友禅の歴史は約300年。江戸元禄の時代、京都出身の人気絵師であった宮崎友禅斎が染めの技術を金沢に持ってきました。彼の名をとって、友禅染めと言います」と晋史さん。

加賀友禅 訪問着『朝焼け』鶴見晋史作
加賀友禅 訪問着『朝焼け』鶴見晋史作
加賀友禅 訪問着『朝焼け』鶴見晋史作(部分拡大)

まず、加賀友禅の特徴とはどんなものでしょうか。

友禅染めには、京友禅加賀友禅、東京友禅の3つがあります。それぞれ各地域で作られるのですが、東京友禅は粋な感じですね。京友禅は、金や刺繍を使って華々しい見た目。そして加賀友禅は、落ち着きのある草花紋様を色だけで染めたもの」

「絵の輪郭に糊を置き、その内側を色づけしていくという染め方をします。そのほか、葉が虫に食われたような跡をつける『虫食い』という技法や、絵の縁側から内側に向かってぼかす『先ぼかし』という技法も加賀友禅の特徴として挙げられます」

手染めの際に使われる道具と染料

友禅染めの創始者といわれる宮崎友禅斎は、石川県能登に生まれました。

京都で扇絵師として名を上げたのち、晩年には金沢に戻ります。そして加賀藩御用である紺屋頭取「太郎田屋」に身を寄せ、加賀染めをベースにした着物染色の斬新なデザインを生み出していきます。これが現在の加賀友禅の礎になったと言われます。

 

晋史さんの曾祖父に当たる鶴見他吉郎さんは、晩年の友禅斎が身を寄せた「太郎田屋」で家督を務めた人物でした。つまり加賀友禅発祥の地において、由緒正しい家系に生まれたのが晋史さんなのです。

過去の図案。着物の原寸サイズで描かれています。「これで50年分でしょうか。昔は着物に直接描いていたので、古い物はありません。追加受注を受けるようになって以来、図案を描くようになりました」
過去の図案。「古いものでは50年ほど前のものがあります」
「昔は着物に直接描いていたので、古い図案というのは存在しません。追加受注を受けるようになって以来、図案を描くようになりました」

当然ながら、ひとつひとつの絵は職人の手によって描かれます。言い換えれば、途方もない時間が費やされて仕上がるのが友禅染め。では実際、どれだけの月日がかかるのでしょうか。

「大体ひとつを仕上げるのに、3ヵ月はかかりますね。うちの工房では一度に4、5枚を並行させながら、年間で30〜40衣を仕上げています。私と父が加賀染振興協会に登録している加賀友禅作家で、私たち2人が仕上げた着物には協会の証紙が発行されます。そして私の妻と従業員が1人。計4名で賄っています」

晋史さんの父、保次さんは石川県文化功労賞を表彰された、まさに金沢を代表する加賀友禅作家の1人です
晋史さんの父、保次さんは石川県文化功労賞を表彰された、まさに金沢を代表する加賀友禅作家の1人です

3ヵ月という月日をかけ、ようやく1枚が仕上がる友禅染め。その価格帯は一体どれほどのものなのでしょう。

 

「近ごろではインクジェットで作られたものもあり、こうしたものは数万円から手に入りますね。私たちが手がける本加賀友禅では、ものによっては300万円を超えるものもあります」

「着物が最も売れていたのはバブルの頃。その時代から価格は少しずつ下がってきている感じですね。最近も着られる方は増えてきているけれど、アンティーク着物が多い。高級着物になると事情はさらに異なってきますね」

筆を入れる瞬間は、まさに真剣そのもの
筆を入れる瞬間は、まさに真剣そのもの。最高峰の匠が3ヵ月かけて完成させる着物は、それを着る者に一体どんな語りかけをしてくれるのでしょう

それでは、手がけるものは着物だけなのでしょうか。手染めに拘る理由とは?

「これまでは着物ばかりを手がけてきましたが、近ごろでは扇子ストール、小物も並行して手がけるようになりました。技術的には、手染めによって出来るムラが風合いを生み出すんです。対して、インクジェットはぺたっと凹凸なく表面を満遍なく塗られた感じの仕上がり。今のところ、違いはそのくらいですね」

 

では、本加賀友禅がその他と一線を画するのはどんな理由からなのでしょう?

「手染めには、均等に仕上がっているよりも、なんとなく強いところや弱いところがあったりといった趣きがあります。いざ着物を選ぼうというとき、実際に羽織ってみたり、鏡越しの姿を真剣に見つめたとき、そうした趣きが目に見えないかたちでときめきとなって訴えかけるのではないでしょうか」

「父は、いつも絵を描いているだけだから、小さい頃は地味な仕事だなと思っていた。でもいざ自分でやってみたら、ずっと新しいものを作っていかなければならない分、張り合いがあって楽しいと感じるようになりました」
「父は、いつも絵を描いているだけだから、小さい頃は地味な仕事だなと思っていた。でもいざ自分でやってみたら、ずっと新しいものを作っていかなければならない分、張り合いがあって楽しいと感じるようになりました」

高校時代から絵画を習得するため、ふたつの教室を梯子しながら木工デッサンと水彩画を学んだという晋史さん。大学卒業後、家業を継ぐことに抵抗を覚え、一度は就職活動に励みましたが、最終的には家業継承の道を選びます。そして現在、手染めを始めて四半世紀が経ちました。

「基本的には、日々同じことの繰り返し。なにか飛躍的に変わるようなこともあればいいなとは思いますが、300年ものあいだ続いてきたものですから、そうたやすく変えられるものでもない。日々、ほとんど見えないような成長を重ねながら、ひとつひとつと向き合っています」

 

最後に、手染めを通してどんなことを伝えていきたいでしょうか。

「染色には透明感があります。透き通ったきれいな着物を仕上げ、それが着られる方の心に響いたらいいなと思いますね」

晋史さんのお話を聞いている最中も、その奥で黙々と作業に没頭されていた保次さん。その姿には、晋史さんの話ひとつひとつを裏付ける所作が詰まっていました

 

テクノロジーの発展による時代の移り変わりはいま、伝統工芸の歴史を大きく変えようとしています。そんななか、現代の息づかいを感じながらも、貫くべきものは貫く匠たちから学ぶべきものは多いように感じられます。

ICHI POINTでは、これからも鶴見染飾工芸、そして加賀友禅を応援していきたいと思います。

 

さて、日本の匠(職人)にクリエイティブの源を聞くインタビュー特集『匠の道』では第4回から第6回にかけて、北陸の作家3名を紹介して参りました。次回にあたる第7回では、3名の皆さんが力を合わせて生み出したニュープロダクトを紹介させて頂きます。どうぞご期待下さいませ。

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