輪島塗の魅力は、丈夫さと美しい漆にある?
およそ数千年もの歴史をもつといわれている、石川県が誇る伝統工芸品「輪島塗」。
輪島塗は漆を用いた伝統技法で、100以上の作業工程を多くの職人によって製造されています。
この記事では、輪島塗の特徴から魅力、歴史について詳しくご紹介します。
輪島塗とは
輪島塗は、石川県輪島市で作られる漆器です。
漆器には、輪島地の粉を下地に用いています。輪島地の粉とは、能登半島でとれた珪藻土を粉状にしたものです。
なんといっても、漆の美しい艶が魅力な輪島塗。
土台となる木地には、金や銀の粉末を混ぜた漆を何度も塗り重ね、模様を描きます。そうすることで、深い輝きと美しい色合いを表現します。
そんな輪島塗は、1977年に国の重要無形文化財に指定されました。
輪島塗の特徴と魅力
輪島塗は美しさはもちろんですが、丈夫さも大きな特徴のひとつです。ここでは、輪島塗の特徴と魅力についてご紹介します。
華やかな見た目
輪島塗の美しい見た目は、堅牢優美(けんろうゆうび)とも呼ばれ、日本が誇る装飾です。その美しさは、主に沈金(ちんきん)と蒔絵(まきえ)のふたつの方法で施されています。
沈金(ちんきん)
輪島塗にはさまざま魅力がありますが、華やかさも大きな魅力のひとつです。漆で何層にも塗り重ねられたうつわは、輪島塗にしか出せない艶やかさがあります。
さらに美しさを演出してくれるのが、金や銀の箔が施された装飾です。この技術は「沈金(ちんきん)」と呼ばれ、彫った文様に漆をすりこんだあと、箔を置いていく技術です。
彫った文様に装飾していくことで、立体的に見えるのが特徴。彫る方向や深さの違いによって、異なる表情がうかがえるのも魅力です。
蒔絵(まきえ)
蒔絵とは、漆で文様を描き、漆が固まる前に金銀粉を蒔きつける技法のことをいいます。
丈夫さの秘訣
輪島塗の特徴のひとつである、丈夫さ。その丈夫さの秘訣は、下地に隠されています。
地の粉(じのこ)
地の粉とは、珪藻土を蒸し焼きにして粉砕したものをいいます。
輪島塗では、主に能登半島で採取したものが用いられ、地元の方には「輪島地の粉(じのこ)」と呼ばれているそうです。
主に輪島塗の下地材として用いられ、珪藻土の小さな穴に漆液が染み込むことで、強度の高い下地ができあがります。また、粉の大きさにも種類があり、工程によって使い分けられています。
布着せ(ぬのきせ)
布着せとは、うつわの壊れた箇所に布を貼り付け補強していく輪島塗ならではの技術です。椀などの縁や底の薄いところに、麻布や寒冷紗(かんれいしゃ)といった布を貼り付けていきます。その際に、漆(生漆と米糊とを混ぜたもの)を接着剤として用います。
塗師(ぬりし)の指先でなでつけられた布と木地が完全に密着することで、木材がより頑丈かつ耐久性が増します。
ずっと使い続けられる漆器
輪島塗の美しさと丈夫さは、「輪島塗124工程」といわれるほど数多くの工程と何人もの職人の手仕事を経てできています。
そのため、もしうつわが欠けたとしても、傷や剥げが深部まで及ぶことはほとんどないといえます。
職人の手によって修理ができることで、気に入った漆器を長く使い続けられることも、輪島塗の魅力のひとつです。
輪島塗の歴史
諸説ありますが、鎌倉時代後期から室町時代に紀州の根来寺(ねごろじ)から来た僧が輪島塗の原型となる技術を伝えた説が有力といわれています。
ただし、能登半島にある数々の遺跡からは7,000年〜8,000年前の漆器や装飾品が数多く発見されています。
また、1467年に輪島在住と見られる塗師の名が記されるところから、15世紀後半には漆器の生産が行われていたと考えられています。
江戸時代に入ると技術が進歩してゆき、現在の形に近い形の輪島塗が作られるようになり、沈金と蒔絵の技術を発展させます。
そして、塗師屋(ぬしや)が商品の見本をもって、行商して販路を拡大していきます。さらに、独自に椀講(わんこう)と呼ばれる販売方法を考案したことで、多くの人に広まっていきました。
椀講とは、数名でグループを組み品物のお金を出し合い、抽選に当たった1年で一人のみが品物をもらうことができる仕組みです。
輪島塗の作り方
輪島塗の100以上もの作業工程は、分業制で分担されています。そんな作業工程は、大きく4つに分かれます。
塗師屋(ぬしや)
塗師屋とは、企画から製造、販売などすべてを管理する、いわば総合プロデューサー。100以上の工程をまとめ、最終的にどのようにして売るのかを考える重要な立ち位置です。
木地(きじ)
輪島塗の土台となる木地を作る、木地師と呼ばれる職人たちがいます。選んだ木地を削ったり、くり抜いたりして成形します。
輪島にはそれぞれの技法を専門とする職人によって、木地の種類によって最適な木材が選ばれています。
なお、木地は大きく分けて次の4種類があります。
椀木地(わんきじ)
椀木地はろくろを挽いて、椀や皿といった丸い形をしたものを作ります。木地には、ケヤキやミズメザクラが用いられています。また、挽物木地(ひきものきじ)ともいいます。
指物木地(さしものきじ)
指物木地は、板状の木地を組み合わせ、膳や重箱といった四角いものを作ります。木地には、アテやヒノキ、キリ、トチなどが用いられています。また、角物木地(かくものきじ)ともいいます。
曲物木地(まげものきじ)
曲物木地は、薄い板を折り曲げ、わっぱや丸盆といった曲げたものを作ります。木地には、アテやヒノキ、キリなどが用いられています。
朴木地(ほおきじ)
朴木地は鑿(のみ)やカンナで木をくり抜き、自由自在に成形します。好きな形を作れるのが、朴木地の特徴です。木地には、ホオやアテが用いられています。また、刳物(くりもの)木地ともいいます。
髹漆(きゅうしつ)
髹漆とは、漆を塗る技法のことです。この工程では、下地、中塗り、上塗りが施されます。
下地
下地の工程では、用意した木地に漆を塗っていきます。壊れやすい箇所には、布着せを行い補強します。そして、一辺地、二辺地、三辺地と呼ばれる3段階に分けて塗り重ねていきます。何度も塗るたびに乾燥と研ぎを行うことで、きめ細かくなめらかな風合いに仕上がります。
上塗り
下地のあとに中塗りを行い、上塗りでは漆を数回に分けて塗ります。
上塗りは髹漆のなかで最後におこなう工程のため、ほこりやちりがつかないような場所で、厚さを均等に仕上げていきます。
加飾(かしょく)
丈夫な作りと華やかで美しい見た目は、最後の加飾によって調整されます。
輪島塗における加飾の技法には、主に次の3つがあります。
呂色(ろいろ)
呂色は上塗りしたあとに、研ぎ炭で磨き、漆を塗りこむ作業を繰り返します。呂色師の手によって丁寧に作業が繰り返され、漆器に艶を出します。
蒔絵(まきえ)・沈金(ちんきん)
輪島塗の華やかな模様は蒔絵・沈金の装飾方法で作られています。
ここでは、漆で模様が描かれ、金や銀といった箔を用いて美しく華やかに仕上げられます。
受け継がれる伝統技術
およそ数千年の歴史をもち、現在まで受け継がれてきた輪島塗。
そんな100以上もの作業工程がある輪島塗は、多くの職人によって支えられています。
職人が木地の選定からこだわり、手に持ったときにしか感じ取れないぬくもりや多くの魅力があります。
また、もし欠けてしまっても修理をすれば生涯にわたり使えるのも輪島塗ならでは。
椀や箸など、一生もののうつわをぜひ毎日の食卓に取り入れてみてはいかがでしょうか。