寄木細工―美しい模様のひみつ
▷箱根寄木細工の歴史についてはこちらの記事をご覧ください。
箱根寄木細工は、その名のとおり「木を寄せ集めて」つくる作品です。
精緻な幾何学模様は、着色料などを用いず、樹木の自然な色を生かして作られています。豊富な樹種を誇る箱根山のもとであるからこそ生まれた工芸といえるでしょう。現在、箱根山は国の保護区となっているため、国内外から様々な木材を集めることで多様な表現を可能としています。しかし、寄木細工が生み出す色の秘密は、それだけではありません。
寄木細工が生み出す色のひみつ -埋もれ木-
「埋もれ木」とは、倒木してから数百年ものあいだ地中に埋まっていた木のことで、「神代(じんだい)」とも呼ばれます。土砂によって酸素が遮断され、腐敗していない状態で再び掘り起こされる「埋もれ木」は、たいへん貴重な木材。地中に埋まっていたことで独特な色合いに変化し、寄木細工の模様に深みを増してくれます。寄木細工の美しさは、まさに自然が与えてくれた恵みによるものなのです。
伝統文様と新しい文様
自然がもたらしてくれる木の豊かな色合いを利用し、市松や青海波、麻の葉など、伝統文様の数々を表現する寄木細工。その精緻さは、とても木材だけを利用しているとは思えないほどです。
伝統文様と一口に言っても、どの木材を組み合わせるかによって表情は大きく変わってきます。たとえ同じ種類の木であっても、ひとつひとつの色合いや木目が異なるので、まったく同じものは二つとないのです。
最近では、従来の文様や製品の枠にとらわれない、新たな作品が生み出されています。
そのひとつが時計ブランド「ICETEK(アイステック)」とのコラボレーション。
ICETEKのアイコンであるダイヤモンドを文様に落とし込んだのは、寄木細工の若手職人集団「雑木囃子(ぞうきばやし)」のメンバーである篠田英治氏です。篠田氏は非常に細かい細工を得意としており、500円玉ほどの大きさの「日本一小さな秘密箱」などを製作しています。
その技術によって、小さな時計盤にダイヤモンドの文様を表現しました。
従来の伝統文様が約1日で仕上がるのに対し、ダイヤモンド文様の製作には丸1週間を要します。仕上がりの良いものを選定すると、手間暇は2倍3倍にもなるといいます。
使用する木材も日本産に限定した、「メイド・イン・ジャパン」にこだわった作品。若い感性が寄木細工の伝統にどのような新しい風を巻き起こすのか、今後がもっと楽しみになる逸品です。
ICETEK
QUINTEMPO1_WOOD
※参考商品
<篠田英治氏プロフィール>
1982年 神奈川県相模原市生まれ
2002年 京都伝統工芸専門学校 入学
2003年 京都伝統工芸専門学校 卒業
2013年 厚生労働省認定 神奈川県箱根細工技能師 認定
非常に細かい細工を得意とし、小さな秘密箱やオルゴールなどを製作している。