田中 恒子
和食器&生活用品ブランド「TSUNE」デザイナー
Photos by Tomo Kosuga Text by Tomo Kosuga日本の匠にクリエイティブの源を聞くインタビュー特集『匠の道』。
第9回は、和食器&生活用品ブランド「TSUNE」のデザイナーを務める田中恒子(たなか・つねこ)さんのアトリエを訪問しました。和とも洋ともとれるような、独自の温もりある食器を手がける恒子さん。これまで生み出された食器の数々に触れながら、食器に込めた思いや食器コーディネートの極意など、たくさんのお話を聞かせて下さいました。
主役はあくまでも家庭料理
TSUNEの食器は、そのひとつひとつが熟練の職人によって時間をかけて生み出される一点ものでありながら、主役の座はあくまで家庭料理に引き渡すことを大切にしています。
「コンセプトは〝四季折々〟。移ろいゆく四季に自分の思いを色として重ねながら、一つひとつを作っています。たとえば桜をモチーフにしても、薄紅でえがく年もあれば、夜桜の白を思う年もありますよね。その年、その場所によって変化する感じ方を頼りにしながら、四季の移り変わりとその思い出に寄り添う器造りを心がけています」
自然からインスピレーションを受けて調合される釉薬が豊かな色彩を食器に与える一方で、主張しすぎるということはありません。むしろそれらが食卓に四季の訪れを感じさせてくれ、どんな料理を盛りつけようかと想像するのも楽しくなります。
服を生み出すように器を生み出す
そんな季節の魅力あふれるTSUNEの食器を生み出す恒子さんですが、食器作りを始める前はファッションの世界にいたという経歴の持ち主。文化服装学院でデザインを専攻したのち、ファッションブランド「ヨーガンレール」に就職、パタンナーのポジションに就いたといいます。意外ともとれる経歴ですが、そこには器作りとの共通点がありました。
「新卒でヨーガンレールに入社し、そのなかで必死に服造りを学びました。そしてようやく自分なりに色々やれるようになったとき、陶器の魅力を知ったんです。そのとき気づいたのは、服を作るのも器を作るのも大して差はないんだなということでした。まず作りたいと思ったものの絵を描き、その制作工程を指示書を書く。作る流れは同じなんです。そのことに気づいてますます食器作りにのめり込んでいきました」
こうした制作工程を確立させることによって、全国に散らばる伝統工芸の職人たちと手を組むことを実現させ、芸術的な意匠をまとったTSUNEの器は産声をあげます。
当たり前の日常にある景色を
奇しくも当時、恒子さんのご主人が飲食店をオープンさせることとなり、その食器を恒子さんが手がけたことによってTSUNEの活動は始まりました。以来、陶器に季節と思い出を重ね続けて三十余年。春夏秋冬といえども毎年異なる季節が訪れ、新たな発見をもたらすといいます。
「秋になれば落ち葉を、春から夏にかけては若葉を観察します。そうしていると、去年までは気がつかなかったことにも、今年は気づくこともありますよね。そうやって、毎年異なる四季を陶器に反映しています。それはなにも特別な場所で見られる風景でなくて良く、むしろ誰にでも訪れる景色ですね。朝の時間、夕暮れ時。仕事の帰り道、疲れたなと思いながらふと目に留まるもの。そういった日常の景色からヒントを得ることで、より多くの方々に共感してもらえるのではないかと思います」
食器が生み出す家族の団らん
TSUNEの食器が季節をきっかけとするのは、その食器が辿り着く終着点を考えてのもの。四季を取り入れた先で恒子さんが期待するのは家族の団らんでした。
「食卓は家族が集まる場所。それこそ食器がきっかけとなって、食卓で家族の会話が生まれたらいいなと思うんです。その時その時の季節感は自然な刺激を与えてくれますから、そうして弾んだ会話の延長線で食事を楽しんでもらい、〝今日も一日楽しかった〟と収まるきっかけになれば嬉しいですね」
毎日の食卓に彩りを加えるだけでなく、家族がひとつになるきっかけ作りを終着点にする。ここにも、TSUNEの器が持つ暖かみの理由がありました。
すでにある食器との共存を考える
しかし家族の団らんを最終点に掲げても、それが実際に家庭のなかで使われなければ意味がありません。実際、どの家庭においても、買ったはいいけれど使われずに食器棚のなかで眠り続ける食器はいくつかあるもの。そこで恒子さんは、時に空間コーディネートまで手がけるといいます。
「店頭に立てば、お客様のリクエストに沿ってコーディネートを提案します。買いたいと思う食器を、では現実的にどのように使えば良いかということですね。ここで大事なのは、すでにおうちにある食器とどう共存させるかということ。持って帰ったはいいけれど、日々の生活で使えないのでは本来の意味を失ってしまいます。いかに収納しやすく、それでいて毎日使えるかどうかを一緒に考える。そこにおいてリアルな提案をすることがコーディネートだと思っています」
作り手の思いを一方的に押しつけるのではなく、時には和となり洋となれるような器であること。芸術的な意匠を持ち合わせながらも、あくまでも主役は家庭料理。ここで初めの話に戻りましたね。恒子さんの話を聞くことから、三十余年の季節を巡り巡って形作られたTSUNEの食器が持つ奥深さに少しだけ触れられたような気がします。
TSUNEの食器は壱ポイントでも取り扱っております。いつもの食卓に四季を取り入れ、そこから始まる家族のひと時を皆様にも楽しんで頂けたらと思います。
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