浅草
Photos by Tomo Kosuga
桜が満開をむかえ、よく晴れた春の暖かな日。
日本人にも外国人にも人気の観光地・浅草を訪れました。
今回の街歩きには、浅草を知りつくした、うららさんという心強い案内人がいっしょです。うららさんは、浅草で振袖さんとして活躍していた方。振袖さんとは、料亭などに呼ばれて踊りを舞う人のことで、京都でいうと舞妓さんのようなものですが、それほど敷居は高くないそうです。
小料理屋やホテルの宴会、噺家さんの襲名パーティーなんていう浅草らしい祝いごとの席にも呼ばれるのだとか。
待ち合わせ場所は、雷門の目の間に建つ観光案内施設「浅草文化観光センター」。その理由は、最上階にうららさんおすすめの展望テラスがあるからです。
「浅草界隈を一望できるの。私が浅草を案内するときはいつもここからよ」といううららさんのあとに続いて最上階に上がり、これから巡る地を眺め、浅草散策がスタートしました。
もくじ
仲見世通り界隈でつまみ食い
浅草は、そこここにおいしいものがたくさんある街。今回の散策でも、「あそこもおいしい。ここも好き」と、うららさんのグルメ情報がたくさん飛び出しました。
まずは、スタート地点の浅草文化観光センターの並びにある和菓子屋「亀十」。
「ここのどら焼きすごくおいしいの! 皮がふんわりで生地が卵っぽくてね」とうららさん。
購入しようと店に向かいましたが、実は、亀十のどら焼きは行列ができるほど大人気。店員さん曰く「早いとお昼すぎには売り切れちゃいますね」とのことなので、どうしても食べたい人は予約をするといいでしょう(それも数週間先になりますが)。
次は、浅草寺に向かう仲見世通りにある「舟和」。
全国に店舗をもつ有名店なので、今さらと思うかもしれませんが、うららさんがおすすめするのには、こんなわけがあるのです。
「舟和さんは芋ようかんやあんこ玉がおなじみだけど、焼芋大福って知ってる? 振袖仲間にはそっちのほうが人気だったのよね。舟和さんはもっと焼芋大福をプッシュすべきだわ」
浅草名物の人形焼きを買うならば、型がかわいい「亀屋」が、うららさんのお気に入り。仲見世通りに店があり、店頭で焼く様子が見られます。
浅草をぶらぶらしていると、多く目にするのが揚げまんじゅう。名物なだけあって、どこの店を選べばいいか迷ってしまいますが、うららさんのおすすめは、仲見世通りにある「浅草九重」。
「場所を忘れたら、観音様(浅草寺のこと)に一番近い店って覚えておくといいわよ」と教えてくれました。
昼食、夕食、お茶にお酒。
目移りしながら選んだのはこのお店
昼食は、とんかつ屋「とん将」へ。
数多ある飲食店の中で、このお店を選んだわけは、仲見世通りにある、炭火手焼きせんべい「壱番屋」の店主・飯田隆夫さんがおすすめしてくれたからです。
飯田さんは仲見世商店街振興組合の理事を務める人で、ふたりは「隆夫ちゃん」「獅子丸(うららさんの振袖時代の名)」と呼び合うほど仲よし。
そして、飯田さんはグルメでもあることから、仲見世通りを散策したときに立ち寄り、情報を得ていたのでした。
ちなみに、うららさんは振袖さんを引退後、「かぐや妓のうらら」に名を変えてお座敷にあがっていますが、「浅草では、やっぱり今でも『獅子丸』って呼ばれるのよね」なんだとか。
とん将の店内では、地元の人と思われる年配の男性2人組が世間話をしながらお昼の定食を食べていたり、近所の人らしき男性が、メニューにはないものを注文したり。豚カツのおいしさはさることながら、こうした様子が見られる、地元に根づいたお店でもあります。
おやつを食べに向かったのは、甘味処の「梅むら」。
カウンター6席に、座敷のテーブル席が3卓という店内は、素朴で気取らない雰囲気。こちらも、常連さんとおぼしき人が店員さんと挨拶をかわす光景が見られ、浅草の地と人に愛されていると感じさせるお店でした。
「浅草は、喫茶店が多いことも特徴だね」とは、先の飯田さんの言葉。その言葉の通り、浅草には数多くの喫茶店があり、カフェとは一線を画す、独特の雰囲気が楽しめます。
いくつもある喫茶店の中から選んだのは、「ローヤル珈琲店」。
店内に足を踏み入れると、テーブルやいすの大きさから、照明の色、メニュー表に至るまで、これぞ喫茶店といった雰囲気が漂っています。
スポーツ新聞を読みながらコーヒーを飲む男性や、おしゃべりに興じる年配のご婦人、コーヒーとケーキを食べているおじいさんなどで賑わい、こうしたお客さんも喫茶店らしさを醸し出す要因のひとつになっています。
夕食は、うららさんがお座敷に呼ばれて何度も踊りに行ったという老舗うなぎ屋「うなぎ小柳」へ。ここは、歌舞伎俳優をはじめとした著名人も通う人気店です。
ちなみに、きも吸いは別料金ですが、
「小柳さんの肝吸いは、創業当時から変わらず100円なんですって。うなぎの値段を上げないわけにはいかないから、せめてきも吸いくらいは、という店主のはからいだそうよ」とうららさん。
その心意気に感謝しつつ、ぜひいっしょに注文したいものです。
浅草探索の最後は「神谷バー」で締めましょう。
ここは、電気ブランというカクテルがあまりにも有名で、多くの文豪に愛された日本初のバーです。
店内はテーブル席がずらりと並び、仕事帰りの会社員や、常連の雰囲気を漂わせている人たちで大賑わい。「下町の社交場」とうたうだけあり、まさにそういった雰囲気です。
もちろん電気ブランを購入し、ひとりで飲んでいたご年配の男性の横に相席でおじゃますると、自然と会話がはじまり、いっしょに飲むことにしました。実は、この方がとても個性的で、少々からみ酒となったのですが、
こうした出会いも、浅草の魅力のひとつなのです。
浅草ならではの
エンターテインメントを満喫
浅草のエンターテインメントといえば、落語を楽しめる「浅草演芸ホール」と漫才やコントがメインの「東洋館」が有名です。しかし、せっかく浅草に精通したうららさんがいっしょなのだからと、少しマニアックなところを回ることにしました。
ひとつ目は、大衆劇場の「木馬館」。大衆劇場とは、時代劇を主とした芝居や舞踊、歌謡ショーなどが見られる施設のこと。木馬館では、月に一度公演劇団が入れ替わり、昼夜2回の公演が行われ、演目は毎日変わるというから驚きです。
「踊りもお芝居もすごくじょうずでね。しかも映画よりも安い料金で楽しめるの」とうららさん。
拍子木がカチカチと鳴って舞台の幕があがり、公演スタート。歌に合わせての踊りは迫力満点、芝居もストーリーがわかりやすく引き込まれてしまいました。
もうひとつの穴場スポットは、「江戸下町伝統工芸館」。
ここは、この界隈で、江戸の昔から今に受け継がれてきた職人の技や、それを駆使した作品を見ることができる場所です。
神輿や銅工芸、桐たんすなど、さまざまな伝統工芸品が常設展示されている2階を見るのもいいですし、土日には1階で職人による実演が行われるので、それを目的で来館し、職人の技を目の前で見るのも楽しそうです。
うららさんおすすめの
立ち寄りどころ
食べもの
●豆腐・生ゆばの「栃木屋」
「ここの豆腐おからドーナツがおいしいの」とうららさん。店内をのぞくと、揚げたてがカウンターに並んでいました。
●洋菓子屋「みるくの樹」
「振袖さんはみんな、誕生日ケーキをここで頼むの」というお店。はちみつりんごパイがおいしいそうです。
●大学芋「千葉屋」
浅草にはほかにも大学芋の店はありますが、ここがおすすめの理由は、「チェーン店ではないから。ここにしかないのよ」だとか。
●七味唐辛子の「やげん堀」
ひょうたんの形の容器に入れてくれるので、うららさんは、贈りものとして利用しているそう。「好みの調合にしてくれたり、辛さを選べたりするのもいいのよね」
●喫茶店「ロッジ赤石」
朝方まで営業しているため(日・祝日は深夜1時まで)、タクシー運転手が集う店としても有名です。「メニューが多くてね、たのんだものを作ってくれるの」
●喫茶店「ブラジル」
壱番屋の飯田さんが教えてくれた、おすすめの喫茶店です。「ブラジルといえば、チキンバスケットだよね! そうそう、にんじんのピクルスがすごくうまいんだよ~」と飯田さん。
食べもの以外
●染絵てぬぐいの「ふじ屋」
江戸のシャレがきいた柄のものや季節の花が描かれたものなど、渋くてかっこいいてぬぐいが手に入ります。「軒先にかかるのれんの絵柄は、『いとし藤』というのよ。『い』が十(とお)並んで縦に『し』がスッと引かれていて藤の花を描いているの。藤の花で『愛し』を表現しているのね」とうららさん。
見どころ
●「初音小路飲食店街」の藤の花
通りに藤棚が設置されていて、5月のはじめごろに、美しい薄紫色の藤が見られます。うららさん曰く「夜はちょっと怪しい雰囲気になって怖いのだけれどね(笑)」
浅草街歩きのアドバイス
●仲見世通りを歩くときは裏技を使って
雷門をくぐると、浅草寺へと続くメイン通りの「仲見世通り」が現れます。ここはいつでも大勢の人で賑わっていて、思うように歩くことができません。
もし行きたい店が決まっているならば、仲見世通りをはさんで両側に走っている脇道を歩くという裏技を使うといいでしょう。
●月曜日の散策は気をつけて
月曜日は定休日のお店が多いので、もしお目当ての店があるならば、事前に確認してから出かけましょう。
●浅草寺は夜にも訪れて
浅草寺は、毎日、日没から23時くらいまで、ライトアップが行われています。夜になると観光客もまばらになり、落ち着いた雰囲気に。本堂や五重塔などとともに、遠くに光るスカイツリーも楽しめます。